ほら、いつかあんたに

ほら、いつかあんたに話したこともあるでせう。自分で志願して、以前、あたしの伴奏をずつとしてゐた男のことさ。金谷秀太つていふの。それが死んだものとばかり思つてたら、まだ生きてたんですつて。この間あたしのリサイタルで、たしかに見かけたつていふひとがゐるの。二階の隅で、ぢつと聴いてたんですつて、間違ひかもしれないわ。でも、ちよつと変な気がするの。
あたしは、いま、自分のこともだけれども、ほんとは、あんたのことが気になつてしやうがないのよ。あんたは、自分で思つてゐるより、ずつと美しい。女は、自分が美しいと思ふだけ、それだけ美しくなるんぢやない? 病人は病人でそつとしておきなさい。あんたは、自分の美しさに値する運命を切り開くのがほんとよ。急がなければダメよ。
あゝ、もう時間がないわ。これから、この家の主人の友達だといふアメリカ人が、ドライヴに誘つてくれてゐるの。尻ごみは大損の元なんていふ諺なかつたかしら。では、元気を出しなさいね。旦那さまに、どうでもいゝけど、よろしく言つてちやうだい。
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