可哀さうね

美代  兄さん。
鉄蔵  …………。
美代  兄さんつたら……。
鉄蔵  …………。
美代  可哀さうね。こら、兄さん、起きるのよ。
鉄蔵  (飛び起きたらしい)
美代  あら、そんなに吃驚りしないだつていゝわ。
鉄蔵  畜生……。
美代  お父つあんが起して来いつて云ふんだもの。
鉄蔵  おやぢ、なにしてるんだ。
美代  眼覚しを直してるわ。
加代  (上つて来て)鉄ちやん、眠いでせう。
鉄蔵  当りめえよ。おやぢ、なんの用があるんだい。
加代  あんた、あんまり元気がなささうだからよ。心配してるんだわ。きつと。
鉄蔵  やい、マスクをどうしたんだい、こいつ……入れとけよ。
加代  お父つあんと喧嘩しちや駄目よ。なに云はれても、ハイハイつて云つてなさい、(間)鉄ちやん、なにぼんやりしてんのよ。

鉄蔵、急に起ち上つて、階段を下りはじめる。

鉄蔵  お父つあん、なにか用?
欽蔵  まあ、そこへ坐れ。
鉄蔵  そんな時計、何時だつていゝんぢやないか。それより松田さんの懐中、早く頼むつて云はれてるんだぜ。あの人警報班で、時計がないと不自由だらう。
欽蔵  わかつてる。さつき代りを渡しといたよ。時に、お前からだの具合でも悪いんぢやねえか。 福岡 矯正歯科