巴里の図書館へ

巴里の図書館へ日本の一留学生が訪ねて来て、研究のためだから筆写本の写真を撮らせて貰ひたいと申込んだ。すると図書館の係りの者が、「日本ではいつた いこの筆写本の写真が何枚いるのだ」と尋ねたさうである。これで、その写真を撮つて行つた日本の先生が既に何人かゐたことがわかつたわけであるが、これな ぞは恐らく、日本の学者がどういふところで余計な精力を浪費してゐるかといふ好い例だと云ふのである。  その通りである。  かういふ例は無数にあるのであつて、この行き方をおしひろげると、現代日本の文化的弱点がありありとわかるのである。  日本には立派な文化の歴史があり、今日もなほ、優秀な文化感覚をもつてゐる国民の一つであるが、悲しいかな、一人一人のうちにその感覚が生きてゐず、創 造の芽が眠つてゐるのである。従つて過去のある時代に於るやうに、国民の特質が渾然とした一つの大きな力になつてゐないところに、現在のわれわれの弱味が あると申してもよろしいのである。 新潟市 歯医者